東京地方裁判所 昭和35年(ワ)960号 判決 1960年9月16日
原告 国井よ志子
被告 大洋航空株式会社
主文
被告は原告に対し、金二十万円と、これに対する昭和三十四年十一月十六日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払うべし。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は、原告が、金五万円の担保を供するときは、仮りに執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、請求の原因として、かつ被告の主張に対して、つぎのとおり述べた。
原告は現に左記約束手形を所持している。
金額 二〇〇、〇〇〇円
満期 昭和三四年一一月一五日
支払地 東京都中央区
支払場所 株式会社三和銀行日比谷支店
振出地 東京都港区
振出日 昭和三四年八月二四日
振出人 被告
受取人 鈴木忍
右受取人の白地裏書の記載がある。
右手形は、被告が受取人欄につき補充権を与え、その部分を白地として振出して、日東電化工業株式会社(その代表取締役石原繁)に交付し、同会社が鈴木忍に割引を依頼し、その間受取人欄が正当に補充されたのち、原告がこれを割引いて取得したものである。
原告は満期の日に右手形を支払場所に呈示して手形金の支払いを求めたが、支払いを拒絶された。
よつて、被告に対し、右手形金二十万円と、これに対する昭和三十四年十一月十六日(満期の翌日)から完済に至るまで手形法所定の年六分の割合による利息金の支払いを求める。
本件手形の支払地「東京都中央区」は「東京都千代田区」の誤記であること、支払場所の記載との対照上、一見明らかである。仮りにそうでないとしても、支払場所は手形の絶対的記載要件でないから、支払地の記載がある以上、被告のいうような不整合は、手形の無効をきたすものでない。
かように述べ、立証として、甲第一号証の一、二を提出し、証人石原繁の証言を援用した。
被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する旨の判決を求め、つぎのとおり答弁した。
被告が原告主張の手形(ただし、支払地及び受取人欄を記入せず)を振出したことは認めるが、その他の原告主張の事実は争う。
被告は昭和三十四年八月頃訴外石原繁及び吉田某から、吉田が石原に融通するための二十万円を調達する手段として手形を貸してもらいたいと頼まれて、右手形を振出したのである。
右手形に支払場所とある株式会社三和銀行日比谷支店は東京都千代田区内にある。右手形の支払地「東京都中央区」は石原、吉田、または鈴木忍が被告の意思に反して書き込んだのである。このような手形は無効である。
かように述べ、立証として、証人石原繁の証言を援用し、「甲第一号証の一の表が真正にできたことは認める。ただし、支払地受取人の部分は被告が記載したものではない。その裏面の部分が真正にできたかどうかは知らない。甲第一号証の二が真正にできたことは認める。」と述べた。
理由
甲第一号証の一(手形)が原告から提出されたことによつて、原告が原告のいう手形の所持人であることを認めることができる。
被告は、右手形を被告が提出した(ただし、受取人、支払地を記載しないままで)ことを認めている。
甲第一号証の一と証人石原繁の証言とを対照して考えると、被告は日東電化工業株式会社の代表取締役石原繁に頼まれ、同会社に金融を得させるため、受取人欄だけ白地にして甲第一号証の一の手形を、受取人欄の補充権を与えて振出して石原に渡したこと、石原は、受取人欄を適宜補充して右手形を割引いてもらうことを頼んで、鈴木忍に右手形を渡したところ、鈴木は受取人欄を鈴木忍と補充したうえ右手形に白地裏書をしてこれを割引いてもらつたことを認めることができる。
右手形には、支払地として「東京都中央区」と、支払場所として「株式会社三和銀行日比谷支店」と記載してある。この「株式会社三和銀行日比谷支店」が「東京都千代田区」にあるとしても、支払場所(いわゆる支払担当者)の記載は手形の必要的記載事項でないから、右の不整合は右手形を無効ならしめるものでない。
甲第一号証の二(真正にできたことに争いがない)によると、原告は法定の呈示期間内である昭和三十四年十一月十八日(満期の十一月十五日は日曜日である)に右手形を支払場所に呈示して手形金の支払を求めたが、支払を拒絶されたことを認めることができる(原告のいうように満期に呈示したことの証拠はない)。
支払地内にない支払場所は支払場所としての効力を欠くものであるが、その支払場所銀行に手形所持人が支払いのための呈示をした場合、振出人からは、みずから定めた支払場所への呈示をもつて無効であると主張することはできないものと解するのが相当である(右支払場所への呈示はむしろ振出人の便宜に適するものである)。
してみると、被告は原告に対し、手形金二十万円と、これに対する原告の請求する昭和三十四年十一月十六日から完済に至るまで手形法所定の年六分の割合による利息金を支払う義務を負うものといわなければならない。
よつて、原告の請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 新村義広)